2011年12月23日金曜日

日本に広場がない訳

(承前)
さて、具体的に設計をはじめるとき、その準備として、法規チェックをします。

この建物の設計をこういう方向で進めていって、法規的に大丈夫か?
あるいは進めるにあたって、検討し、明らかにし、解決していかなければならない法規的課題はなにか?
そんなことを、設計の最初期に調べ、関係機関を協議し、そしてクリアするわけです。

<三次市民ホール>の設計も、そんな手続きを踏んでいて、広島県三次庁舎にある「北部建設事務所」との打合せが、すでに何回か行なわれました。

ホールですから、避難の安全確保は、その最重要課題です。
しかし、ハタと立ち止まったのは、建物全体を地上から5メートル上げたときの、その下にできる空間の扱いについてでした。

先に、私たちが提案したことの骨子のひとつ「地上から、5m持ち上げる」について、以下のように書きました。

「地上から5m、持ち上げる」。すると、その下に空間ができます。雨に濡れない屋根のかかった広場的な空間です。そこを施設の「余白」として、様々に、自由に、活用することができます。もちろん、大きな公演があるときは、駐車場として使われます。

まずは、この屋根のかかった広場的な空間が、建物の床面積にカウントされるのかどうか、です。
床面積というのは、屋内になっている部分の床の面積のことです。
この広場は、高架下のようなもので、もちろん屋外の空間です。
だから、床面積にカウントされないか、というと、そんなことはなく、正解はカウントされる、です。

敷地に対して、敷地面積の何倍までの床面積をもった建物を建てていいのかが法律で決められています。
それが容積率と呼ばれるもので、容積率200%だと、敷地面積の2倍まで建てていい、という意味です。
容積率を規制するのは、その場所の環境の良好を守るためです。
この規制は、その場所ごとに、そこにふさわしい建物の大きさがある、という思想から生まれたものです。
しかし、都会の地価の高いところでは、もったいないから、容積率、目一杯につくりたくなります。
だから、どういうときに床面積としてカウントし、またどういうときにカウントしないか、が細かく取り決められています。
そのなかで、屋外空間であっても、屋内的用途の場合は、床面積にカウントされることになりました。
かなり厳しい規制ですが、建てたいという意志が強いだけ、それを規制しようという意志も強くなるのは世の常です。
では屋内的用途とはなにかと言うと、これは「居住、執務、作業、集会、娯楽、物品の陳列、保管、格納等の用途」のことと定義されています。駐車場は、自動車の「格納」の場所ですから屋内的用途。
こういうわけで、駐車場としても使われる、<三次市民ホール>のこの「雨に濡れない屋根のかかった広場的な空間」は、床面積にカウントされるのです。

そして、床面積にカウントされるとなると、今度は、消防法上、防火性能の仕様を決めるために、その空間の用途を特定しなければなりません。ところが、困ったことに、法文のなかに「広場」という用途がないのです。いちばん近いのは「集会場」か「駐車場」。「広場」というのではだめで、そのどちらかの用途にしなければなりません。

あらかじめ決まって用途がある空間を「遊園地」、人がそこで活動することでその用途がつくられていく空間を「はらっぱ」。空間をこのふたつに分けて、「はらっぱ」をつくっていこう、というのが、私がずっと試みてきたことでした。
でもそもそも、「はらっぱ」あるいは「広場」は、法律上、認められていなかったのでした。
これはもちろん、建築についての法律をつくったときに、人がそこで活動することでその用途がつくられていく空間、なんてものは想定されていなかったことを物語ります。すべての空間はその利用目的なあらかじめ決まっている。それが暗黙の了解なのでした。
そういう前提で法律がつくられると、翻って、空間はあらかじめ利用目的を持ってなくてはならなくなります。
これでは本末転倒、だと私は感じます。

とはいえ、現行のルールはルールとして守らなければなりません。

それで、市と話しあって、この空間を「駐車場」として定義することになりました。
この空間で起きうるもっとも危険な状況は、ガソリンへの引火でしょう。
しかも、駐車の用に使われるのが基本なのですから、「駐車場」でよいのではないか、と。

ただし、この時点で、基本的にはこの空間で「集会」を行うことはできなくなりました。
実に残念なことです。