2011年12月31日土曜日

かなり大きな宿題

前にも記しましたように、全体のスケジュールから考えると、この12月いっぱいまでに、<三次市民ホール>の設計の基本部分にかかわるような、大切なインプットを終わらせなければ、設計が間に合いません。
これは時間的に大変きつかったです。
設計契約をとりかわせる以前はまだ「設計者」ではないので、設計者として市民からの意見をお聞きする機会を持つことができず、ようやく12月のはじめ、設計契約をとりかわしたその日から、残る時間で情報収集を最大化するために、いろいろなことを試みました。
このブログをはじめたのも、そのひとつの試みです。

12月19日、20日には、青木は伺うことはできませんでしたが、青木事務所の亀田、永山、また20日のみでしたが、空間創造研究所の草加が、三次にて「グループ・ヒヤリング」を行ないました。基本計画をまとめるためのワークショップ(以後、略して「ワークショップ」としましょう)をずっと開催されてきたシアターワークショップの小林さんも立ち会ってくださいました。

なぜ「グループ・ヒヤリング」かと言えば、つまり、「立場によって意見・要望は違う」からです。
<三次市民ホール>が完成して、だれがどのようにそこを使うのか、それは、まだ決まっていません。
もちろん、これまで「ワークショップ」に参加されてきた方々のような、新ホールについて、すでに一家言をお持ちの熱心な方々が、そこに含まれることは言うまでもありませんが、そうでない方々も、オープンしたらきっと使うことになるからです。というより、この施設が「使いたおされる」ためには、設計中に意見を言わなかったけれど、できあがったらドシドシ使うという人が、いっぱい生まれていかなければはじまりません。
だから、意見の強弱にかかわらず、いろいろな方々に意見を聞いてみたい、と考えたのです。

19日の夜は、これまで「ワークショップ」に参加されてきた方々に集まっていただきました。
20日の昼は、公的団体(商工会、官公庁、学校関係)、夕と夜は、現在の市民会館利用者に集まっていただきました。
そしてその場で、現在の「たたき台案」を見ていただき、それについて思うことを自由に発言していただきました。

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「ワークショップ」の方々は、すでに自分たちなりに「どのような市民ホールがいいか」を、かなり具体的に考えてみた経験があります。だからでしょう、指摘されたことは、実に具体的でした。
微に入り細に入り、いろいろなレベルでの意見がありましたが、なかでも、設計の基本的骨格を決めていくのに大きく関わる意見は、かなり強引になりますが、次の4点にまとめられるのではないか、と思われます。

1.  駐車場からロビーまでの、スロープなどアプローチへの疑問
2.  大回廊、および 大ホール/ホワイエ/ロビー/リハーサル室の関係への疑問
3.  リハーサル室の、特に音楽ホールとしての利用への配慮のお願い
4.  無駄がなく、シンプルで飽きがこないデザインのお願い

1.  駐車場からロビーまでの、スロープなどアプローチへの疑問
私たちの案は、施設全体を地上5メートルほど持ち上げています。そのため、まず車を駐車所にとめて、そこからなんらかの方法で上に上がらなければなりません。もちろん、そこに「わざわざ感」があっては、<三次市民ホール>に通うのがおっくうになってしまいます。上階へは、自然にアプローチできなくてはなりません。
そこで、私たちは、幅広のスロープを設けて、そこを歩くのが楽しい散歩道になるように考えました。

しかし、まずこのスロープが不評でした。
歩く距離が長過ぎる。雪のときは転んでしまうのではないか。いっそのこと、車で上階に直接行けるようにしたら、などなど。
これら意見の根底にあるのは、車から降りたら、雨にも濡れず、雪にも降られず、さっとスムーズにロビーに入りたい、というお気持ちだと、私たちは理解しました。

2.  大回廊、および 大ホール/ホワイエ/ロビー/リハーサル室の関係への疑問
私たちの案の骨格のひとつが「大回廊」です。それが、施設の外周を一巡りしている、というのが「たたき台案」です。「大回廊」が全体を巡ることで、施設全体の基本形としては、表と裏の区別がなくなります。そこを表とするのも裏とするのも、建築ではなく運用次第、という考えです。

しかし、この大回廊も不評でした。
外周を回っているので、長過ぎる。途中に、ショートカットが必要。
そんなところからはじまって、とうとう、参加された方から、具体的な平面構成案が出てくところまで、意見はエスカレート。
入って正面が回廊+それに取り囲まれる中庭。その右に接して、大ホールホワイエとその奥の大ホール。回廊の左に接して、リハーサル室。こうなると、大ホールの向きが90度回転します。

ホール建築に限らず、美術館でも、図書館でも、ほとんどの建物は、まず入り口に入って、そこがロビーになっていて、そこからそれぞれの機能に分岐していく、というような図式でできています。
その意味で、こうした意見も、なるほど、です。
とはいえ、問題は、この図式が、人がおおぜい入ってくるときに成立するもので、そしてだからこそ、さほどの人が入ってこないつまり平常時には、その空間がとっても「さみしい」雰囲気になってしまう、ということです。
そして、<三次市民ホール>は、日常のときの「にぎやかさ」をどう生み出せるか、が、ひとつの大きな目標なのです。

いや、それにしても、的確なご指摘でした。
たしかに、その素直な視点ももって、案を進化させねばなりません。

3.  リハーサル室の、特に音楽ホールとしての利用への配慮
基本計画で謳われているのは1000席の大ホール。ですが、正直、これが埋まる公演は年に数回のはず。むしろ利用規模として一番多いのは、100人から300人くらいでしょう。そこで、その100人から300人くらいの利用をリハーサル室で。というのが、ワークショップの方々がイメージされていることです。
だから、リハーサル室は、つまりは「小ホール」であって、音楽会としていい雰囲気、よい音響で、ということです。

もちろん、リハーサル室によい音響が求められるのは当然のことです。

リハーサル室はリハーサル室としてそれでよろしいのですが、私たちがもっと気にしているのは、大ホールの方です。ここが日常的に利用できないとなると、じつにもったいない。だから、大ホールを、100人から300人くらいの人が、特に音楽用ホールとして気持ちよく使えるように設計したい、と考えています。
その上で、リハーサル室の位置づけを考えて行きたいと思っています。

4.  無駄がなく、シンプルで飽きがこないデザイン
これは、有限のお金のなかで、なにを優先すべきか、という側面からのご指摘です。第一は機能の充足であり、第二は内装である、という判断です。

私たちもまた、プロポーザルのときの公開審査で、「まずは基本的骨格をシンプルにつくることが大切で、予算が足りないなら、極端かもしれないけれど、オープンしたときが完成ではなく、その後も毎年継続的に少しずつ、内装を追加したり、改良していく、そういう余地があってもいいと考えています。あるときをもって完成し終わるというのではなく、いつもそうしていくという活動そのものを指して、文化というと思うのです。」と申し上げました。

もちろん、この4点以外にも、いっぱいの意見をいただきました。それらが大事でないというのではありません。たとえば、授乳室やおむつ替えのスペースを確保してほしい、など。それらは、もちろん、設計のなかで十分に考慮していくことです。ここであげたのは、繰り返しになりますが、いま建物の基本的骨格を決めていくのにおおいに関わる、という観点で、でした。

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続いては、20日の公的団体(商工会、官公庁、学校関係)からのヒアリングです。

特に、商工会の方々からは、ワークショップの方々とは、外観に関して、ある意味で、反対の内容の意見もでました。
つまり、三次をシンボライズするようなシンボリックな形、外部からの人も引きつけるような強い象徴性がほしいという意見です。
壁面に鵜飼のレリーフを施すことで地域の特徴を生かしたり、三次にシンボルである「川」をイメージさせるせせらぎや、人々にぬくもりを与える曲線を、というような具体的な提案もありました。
商工フェスティバルの観点から、中庭は大きく使えるのがいい、という意見もありました。

こちらの方々にとっての「有限のお金のなかで、なにを優先すべきか」は、第一に外観、なのかもしれません。
たしかに、<三次市民ホール>は、町の人々にとって、記憶に残りまた誇りに思える建築でなければならないでしょう。

そういえば、熊本県の過疎の町に設計した「馬見原橋」の設計のときも、かつての宿場町らしさを表現するモニュメントとしてつくってほしい、という意見が多くありました。しかし、「モニュメント」だと、一度はそれを見にくる人はいるだろうけれど、二度は来てくれません。むしろ、町に育った子供が高校を出て、大きな町に出て行って、それでもお盆とかお正月に帰郷して、そのときそれを見て、「ああ、クニに帰ってきたなあ」と思えるような橋をつくったほうがいいのでは、という話をしたことがあります。そういう気持ちを与えるものが、ほんとうの「シンボル」だからです。

また、このグループでのヒアリングでは、学校の音楽の先生もいらっしゃったので、かなりつっこんだ意見交換も行われました。

楽器搬入口のこと、出演者が交錯しない通路幅の確保、お金をしっかりかけた客席、などなど。

ともかく、この回では、商売をされている方々の視点を確認できたことが、大きな収穫だったと思います。

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最後は、市民会館利用者からのヒアリングです。

ここでも、楽屋の数が足りない、セキュリティの観点から楽屋専用通路が必要、リハーサル室に鏡が必要、リハーサル室専用の親子室も必要、それ専用のピアノ庫も必要、託児室から中庭に出られるように、大ホールで客席から舞台への移動動線が必要など、さまざまな具体的な意見がでました。

私たちがそのなかで、なるほど、その観点は忘れていたと思ったのは、展示機能についてです。たぶん、生け花などで市民会館を利用されている方なのでしょう。リハーサル室規模以上のギャラリーとして利用を考えられないか、という意見です。
ワークショップの方々は、どちらかと言えば、音楽関係の人が多数でそのなかではあまり議論されてこなかったようにも思えますが、しかし、たしかに、美術や生け花のように、展示の場としての利用もありえることでした。

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こうして、私たちは、けっこう大きな宿題をもらって、東京に帰ってきました。
皆さん、どうもありがとうございました。

来年には、皆さんからいただいたご意見の奥底にあるはずの、いまだかたちのないイメージをかたちにしていく作業に入ります。
どうぞ、引き続き、よろしくお願いいたします。