2012年4月5日木曜日

冷たい空間と暖かい空間

ご意見が送られてくるのは、「利用者」の方々からだけではありません。
施設を管理・運営する立場からのご意見もいただきます。
そのひとつは、現在の三次市の「三次市文化会館」を管理・運営されている「株式会社暮らしサポートみよし」からのご意見です。

現「三次市文化会館」は、三次の旧市街に建っています。
1973年の竣工ですから、今年で築39年。
建物の老朽化、耐震性への不安、駐車場の狭隘などなど、いろいろな理由があって、その会館を閉ざし、新しい敷地に新築のホールを建てる。
その新しいホールが、つまり、今度の「三次市民ホール」です。
「三次市民ホール」は「三次市文化会館」を発展的に継承するものなのです。

というわけですから、「三次市文化会館」が、今どんなふうに使われていて、そして、どんな課題があるのか、大変に気になるのは自然のこと。

昨年12月14日、ぼくたちは「三次市文化会館」にお邪魔しました。
出迎えてくださったのは、指定管理者としてこのホールを管理・運営されている「株式会社暮らしサポートみよし」の代表取締役社長の上中道夫さんをはじめとする方々で、長時間にわたって、生の声をお聞きすることができました。

さすが、日頃、心血注いで、現場で運営に当たられている方々です。
おっしゃられることの重みが違います。

いちばん苦労されているとお見受けしたのが、最大1186人収容の大ホールの運用のようでした。
大きな公演にはいいけれど、それ以外のときには、光熱費もかかり、なかなか利用率を上げることができない、
小回りが利かなくて困っている、
ということです。

「需要の幅は大都市と変わらないのですが、やはり需要量総量は少ないわけで、大ホールの大ホールとしての利用だけでは、一定の利用率にどうしても達成しないのです。利用率50%が目標なのですが。。。」

そんなところから、「300人、600人、1000人規模で、違和感なく使える工夫がほしい」という具体的な希望をいただきました。つまり、大ホールを、小ホール、中ホールとしても使えるように設計してほしい、ということです。

これは、「使いたおす」ことをテーマにして設計を進めようとしてぼくたちにとって、その考えを後押ししてくださる内容でした。

ご意見はハードにとどまらず、ソフトにも及び、たとえば、

「楽屋」という名称にすると楽屋としての利用しかイメージできなくなるので「会議室」という名称にしています、
あるいは、
「もし劇場機能を重視するなら、芸術創造活動、公演招聘など文化事業促進予算として、市が最低でも1000万円程度の予算措置をとる必要があります、」
というような話が出ました。

たしかに、「三次市民ホール」が、単なる貸し館にとどまるとすれば、とてもさみしいこと。
市民がいて、せっかくの空間があって、そこから自主的な創造活動の芽をどう育てて行くか、は今後の重要な課題です。

3月24日の「住民説明会」にも、「株式会社暮らしサポートみよし」の方々は参加してくださいました。
そして、その後、代表取締役社長の上中道夫さんから直々に、ご意見をいただきました。

現在の案では、ホール1階では4つの出入口があります。後方に2カ所と、前方に2カ所です。
その4つの出入口がぐるり、回廊でつながっています。
そして、館全体の管理事務所が、この回廊の内側にあります。

こういう現状に対して、
この管理事務所の位置を、回廊の内側から外側に出せないか、
というご意見をいただきました。

というのも、公演時には「職員といえども、緊急時以外は、ホールゾーン内にはみだりに入らないのが原則」であり、主催者にホールゾーンを完全に分離して貸せる方がいいからです。

管理の側面から考えれば当然のご意見だと思います。

そしてまた、もうひとつ、
「全体面積に比べ通路が多すぎ」「迷路・死角」が多く、「管理上大きな欠点」となっているのではないか、
というご意見もいただきました。

これもまた、管理の側面から考えれば当然のご意見だと思います。

でも、このあたりがとても難しいところです。

有限の予算と有限の面積のなかで、また管理の側面からだけでなく、一般利用者の側面から、主催者の側面から、さらには、設計者としての提案という側面、といろいろな立場を総合して、そのバランスのなかで、どの立場にとってもよい案をつくらなければなりません。

管理事務室の位置は、たしかに管理の面からすれば「最大値」の位置ではないかもしれません。
しかし、求められる予算と面積の枠内において、日常時の一般利用(そしてこれがこの計画では非常に重要なのですが)のことを考え合わせるなら、この位置は、総合的には「最極値」であると考えています。
もちろん、それをうまく使いこなすためには、客席前方下手出入り口を終演時のみの利用するというような、管理側から言えば、「面倒な対応」が必要になるわけですけれど。

そういえば、ぼくが磯崎新アトリエ時代に担当した「水戸芸術館」には、小沢征爾さんが主席指揮者をつとめる水戸室内管弦楽団を擁するような立派なコンサートホールがあるのですけれど、そのホワイエは専有ではなく、現代美術ギャラリーでのアプローチを兼ねています。
ここでも、管理側から言えば、「面倒な対応」が必要なのでした。

こうした「兼用」は、管理者側からすれば「欠点」であるし、あるいは計画学的に言っても欠点であるかもしれません。
しかし、完全な便利は同時に「冷たい」空間をつくってしまいがちなのです。
むしろ、空間を運用で補う、というようなところから、自然の町のような「暖かさ」が生まれてくるのではないだろうか。
ぼくはそう信じています。

それはそれこそ、死角・迷路をつくらず、見通しが完全に効く空間にしてしまうことが、管理上ではすばらしいけれど、逆に、そこを利用する人にとっては実に居心地悪く、いかに非人間的なことであることか、それを想像していただければすぐに理解していただけるのではないかと思います。

実際、監獄の設計では、いかに死角をなくすが設計の最重要ポイントだったのです。

ぼくたちは、市民ホール全体を、そこでなにかイベントがあるから楽しいというだけでなく、まずは、特段のイベントもないのに、ただそこに居て楽しい、というふうにしていきたいと思っています。

そう、それは、つまり、街路や町並みのような空間です。

まず、空間としてそういう質の空間があって、そこに自然に人々が溜まり憩うことができるようになっていて、
その上で、そこをもっと楽しく使える工夫(ソフト)がかぶさってくる、
それが理想です。

もちろん死角があれば、セキュリティの問題はあります。
ですから今後、家具の配置や空間の工夫によって、それを解決しなければなりません。
できるかぎり、監視カメラを設けるというような方法でなく、解決したいものです。